タンカニカ ソキソキ 2021
ワイン名・ソキソキ 2021
生産者名/ワイナリー名・
生産国・イタリア
産地・シチリア
スタイル・オレンジ
品種・ズィビッボ100%
「タンカニカ」
シチリア・パンテッレリーア島は、数千年も昔、20個もの火山が繰り返した噴火により、堆積した溶岩が構築した島と言われています。直径15km程、一周車で1時間程で周れてしまうくらいのとても小さな島です。現在は観光がメインの島ですが、昔から葡萄栽培が行われていました。その他オレガノ、カッペリ(ケッパー)などが名産として有名です。地元の漁師一家の次男として生まれたフランチェスコ・フェッレーリは、父の漁師では無く、お爺ちゃんが趣味で育てていた葡萄畑にとても興味を持ち、中学卒業と同時に単身ヴェネトのコネリアーノに渡り、醸造と栽培の勉強を始めました。学校を卒業後は、コネリアーノにあるワインの分析機関やワイナリーで働き、27歳で地元パンテッレリーアへ戻る事を決意します。子供の頃からの目標であった地元パンテッレリーアのワインを造る為、意気揚々と戻ったフランチェスコでしたが、両親の猛反対にあい、当時は全く援助をしてくれなかったと言います。私も実際に現地に行って見てきましたが、「よくこんなとこで葡萄育ててるなぁ・・・」というのが率直な感想でした。6月だというのに30℃近い気温。強すぎる日差しは、畑にいるだけで体力を消耗します。海がすぐそばにあるのに、風通しが良すぎる為、絶えず乾燥している空気。年間降水量も約400mmとイタリア本土の約半分、日本と比べると1/4以下です。しかも年々雨が少なくなってきていて、生活用水も常に不足しがちで、シチリア本土から給水車が周って来るほどです。4月から6月にかけて、毎年やってくるシロッコ(南からの偏西風)の影響で、期間中は絶えず平均15m程の風が吹き続ける事も、春先の乾燥に拍車をかけています。6月を過ぎるとシロッコは嘘のようにぱったりと収まり、測定上の気温はそれほど高くはなりませんが、日差しの強さが厳しく、体感35~40℃にもなる暑い夏がやってきます。夏場は日差しが強い日中の畑仕事は行わず、涼しい午前中と夕方にかけて10数か所に分かれた畑を順番に見て回ります。畑で見て回るのは、それぞれの個性が違う畑で、葡萄がどのように育っているのか、風の影響で葉や実、枝がやられていないか、コンカ仕立(独立したアルベレッロを地中に若干の傾斜を付けて砂を掘り出し植樹するパンテッレリーア伝統の仕立て)の穴が砂で埋まっていないか、一年間畑を見続ける事からフランチェスコのワイン造りは始まっています。小高い山がいくつも連なって形成されている島には、開けた土地には民家や空港等が建てられいるので、農作物を育てる為の開けた平地はなかなか見つかりません。畑がある区画はそれぞれとても小さく、移動距離は短いながらも、移動時間と道中はとても険しいものになります。パンテッレリーアではこのような厳しい環境の中、葡萄栽培をしなくてはならないので、彼の両親は絶対にやらせたくなかったのだそう。(それもとても良く理解できます)しかし彼の大好きな地元でワインを造りたいという意思は固く、両親の反対を押し切り、お爺ちゃんが持っていた僅か0.5ha程のピニャテッロの畑を譲り受け、2017年、初めての醸造を開始しました。その後、知り合いや友人に紹介してもらった畑の持ち主から古い樹が植えられている土地を少しずつ譲ってもらい、全部で12区画、2.5haほどの畑を管理できるようになりました。数年後、彼の熱意に根負けした両親は、資金を援助してくれ、2022年にようやく醸造所とワイン保管庫の建設に踏み切りました。(2021年までは自分の家の庭先にある物凄く狭い小屋で醸造)畑では農薬や化学肥料は一切使用せず、一部の畑では銅と硫黄すらも撒きません。土壌が常に湿気を吸ってくれる事で、カビの被害はほとんど起きないからです。畑で散布するものは特に何もなく、とにかく強く逞しく成長するためにフランチェスコが常に見守り続ける事がタンカニカの農業です。9月から始まる収穫は12カ所ある区画の中でも、一本一本の樹の葡萄の成長を見て、少しずつ順番に開始していきます。本来であれば途方もない作業に思えますが、絶えず全ての樹の成長を見守ってきたフランチェスコからしてみれば、とても単純で当たり前の事です。しかしながらやはり大変で重要な工程です。それぞれの区画毎丁寧に収穫された葡萄は、カンティーナに運ばれ開放桶にて自然酵母のみで発酵を開始します。葡萄の個性毎にマセレーションの長さを決め、一切の温度管理も行わずに発酵を終えたワインは、栗の樽、アンフォラ、ダミジャーナ等の容器で熟成させ、翌年秋以降にワインの状態を見てボトリングされます。全て手作業で行う為、詰められるワインの量も若干の差があります。(何卒ご了承くださいm(__)m)もちろん瓶詰め時にフィルターなどは使わない為、澱と一緒にボトルに詰めますが、しっかりと時間をかけて澱下げをしていますので、若いヴィンテージの間は、ゴリゴリとした澱はありません。(熟成した赤などは時間と共に澱が凝固してくる可能性があります)こうして生まれるタンカニカのワインは、唯一無二の個性を持つ本物のナチュラルワインです。タンカニカとはパンテッレリーアの方言で小さい島という意味。その名の通り、島の自然を十二分に感じてもらえる様、全ての工程で人工的な添加物は使わず、大地が育む野生酵母が生み出す「島の味」を大切に守りワイン造りを行っています。ナチュラルワインを造るその大きな意味の根源を彼のワインから感じて頂けると思います。彼らのワインは他の地域のものと比べ、決して手に取りやすい価格とは言えません。しかし4500本程しか造られない(厳密に言えば造れない)ワインで彼ら家族が生活していく為には、この価格での販売が必要不可欠です。じゃあクオリティを下げて多く作って安く出せば良い、と思われる方もいるかもしれませんが、フランチェスコが皆さんに味わって頂きたい島の味はそこにありません。タンカニカという小さな小さな生産者が、本物の島の味を表現したワイン造りを続けていく為には、我々日本を含め、世界にいる少数の「本物の味に感動してくれる人達」の理解が必要です。彼のワインには皆さんを感動させられる力がありますし、これからもどんどん良いワインを追求し続けるであろう明るい未来(ポテンシャル)があります。
ソキソキ 2021
ズィビッボが持つ華やかさは十分に感じ取れます。始めにプチプチとしたガスを感じ、その後から若いリンゴの様な酸と蜜が広がります。まだまだ一体感という点ではこれからだなという印象は否めませんが、開栓後3日経過すると徐々に硬さが取れ、杯を止められない程の柔軟さを楽しむことが出来ます。もう少しボトル熟成が進めば、開けたてから良く熟れたレモンの様に、一体感のある甘酸っぱい味わいに変化していく事が想像できます。ソキソキを楽しむという事はパンテッレリーアを楽しむという事。皆さんを楽しい小旅行に連れて行ってくれる素晴らしいワインです。
SOKISOKI=パンテッレリアの人たちは、軽石と砂で形成された土地を歩く時にソキソキという音が鳴る事からそのような土地をソキソキと呼んでいた事が由来とされています。彼らの畑の特徴としてワイン名にしています。